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My World

今を生きることは過ぎ去ったことと向き合うこと、などと格言めいたことを頭の中で嘯いたのは、いつも歩く道の曲がり角にあったレストランが跡形もなく無くなって、隣にあった商業ビルの薄汚い壁が何年かぶりに顔を出した時だった。レストランのあった場所には取って代わるように黄土色の土と重機が据え置かれ、人に見られるわけもない商業ビルの側面が所在なさそうにこちらを見つめていた時に、そこにレストランがあったこと、そして、無くなったという事実が頭の中で混じり合い、過ぎ去った時間の厚みが眼前に広がった。

取り戻すことのできない、過ぎ去った時間の尊さ。それを安易に美化するのではなく、どう、今に接続させるのか。

Jam CityことJack Lathamはまさにその混淆を描きだそうとするアーティストの1人だと言えるだろう。〈Night Slugs〉からリリースされた『Classical Curves』で鮮烈なデビューを飾った彼は、当時まさにアクチュアルなアーティストだったと言えるが、しかし、彼は敢えて、時代を踏み外していった。

岩石が降り注ぐような強烈な電子音と瞑想的なポップスが奏でられる『Dream A Garden』、80年代的なAORやR&B、商業ポップスとサイケデリアを接続した『Pillowland』。過去の作品から得たフィードバックを基に、クラブ・ミュージックの魅力を過不足なく表現した『Jam City Presents EFM』。どれも同時代だけではなく、過去の音楽への憧憬、自身の体験や記憶を取り入れながら、彼としての音楽的な探究を突き詰めた作品であった。

本作『My World』はその集大成と言える作品の一つだろう。過去作にも見られた、Michael JacksonやPrinceへのオマージュを今回は隠そうともしていない。本作ではそれらが混ざり切り、彼の音楽として、彼の作品の中に有機的に溶けこんでいく様を描こうとしているからだ。

「起き上がれ/『スリラー』みたいに死から蘇って」という歌詞が印象的な「My World (feat. Aidan, Bawo & Ox Eye)」はかつての『Dream A Garden』を彷彿とさせるようなギターから始まるが、その音色はChristopher Cross「Sailing」のような風通しの良さを携えて、曲の上を凪いでいる。続く「Hung Up (feat. Aidan & Hannah Yadi)」はMichael Jacksonに捧げたような明快なポップミュージックだが、そこにクラブ・ミュージックの意匠が散りばめられ、失われた過去の人間関係が交錯することで、現在と過去という概念が揺れ動いていく。

「Pure Vice (feat. Solv & Aidan)」は昼夜の境目がうやむやになり、明滅する光の中で、過去の痛みを忘れられない男が白昼夢の中に溶け込み、合わせ鏡に投影されたかのように無限に反射されていく様がクラブ・ミュージックにおける“反復”、クラブにおける「音を止めてはいけない」というマナーに奇妙なほどに重なっていく。

その「Pure Vice (feat. Solv & Aidan)」を踏まえた一曲とも言える「Little Vice (feat. Aidan)」は笑ってしまうほど、Prince的な一曲だが、だからこそ、彼にとっては、過ぎ去った時間の厚みこそが自身を形作っているものだ、と示すアルバムの中でも重要な一曲だと言える。

Kate Bush「Wuthering Heights」のオマージュだと言っていい、「2am (feat. Gianna)」もまた、過去の一夜に囚われた女性の姿を抑制的で率直なボーカルが形作り、テンポがスローダウンした先にトリップ・ホップ的な展開が待ち受けているのは、Jam Cityにしかできない技だろう。

同時代の音楽の輪郭を確実に捉えながら、過去が差し込まれる彼の音楽を聴いていると、自分が現在にいるのか、過去にいるのか、思わず見失ってしまう。だが、その時代に捉われないあわいにこそ、彼や私の世界、記憶があり、過去を思い、それを思い出すこと、今を生きること、一歩ずつ歩みを進めることの尊さがあるのだろう。

La Reprise

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